ここでは、哲学・宗教の領域において、入門となるような本を紹介する。何であれ、あるテーマを勉強するなら、そうだと思うが、特にこの領域においては、原典に触れることが何より大切である。主要な、哲学・宗教の原典(古典)を紹介するとともに、解説書・研究書においても、筆者が「自分自身で」書いた、魂の入ったものを紹介した。単に公平中立な概説書ほどつまらないものはないし、また、独断的な心の持ち主によって書かれたものは、好奇心をあおるかもしれないが、本物の益にはならず、読者を育てない。
・

ごく初期の仏教経典。最も古いものと言われ、最もブッダ自身に近いものと言われる。簡潔な語り口で、分かりやすい。
・『維摩経』(ゆいまぎょう)
NHK「100分de名著」ブックス 維摩経: 空 と慈悲 の物語
『世界の名著2 大乗仏典』中公バックス 所収 ほか
初期の大乗仏典で、ストーリー性に富み、内容も分かりやすい。菩薩について、シンプルに理解できる。量も手頃。
・『金剛般若経』
『般若心経・金剛般若経』岩波文庫
『世界の名著 2 大乗仏典』 )中公バックス 所収 ほか
ほかこれも初期の大乗仏典で、内容が分かりやすく、大乗仏教の雄大な雰囲気を味わえる、感性に訴える作品。
・『仏教の思想』 梅原猛他著
角川文庫ソフィア
(一巻あたり、約800円)

仏教の解説書のシリーズ。全12巻。この解説書シリーズは、文庫本になっていて安いのが先ずいい。
全12巻の内容は、
インド編が、
①知恵と慈悲<ブッダ>
②存在の分析<アビダルマ>
③空の論理<中観>
④認識と超越<唯識>
中国編、
⑤絶対の真理<天台>
⑥無限の世界観<華厳>
⑦無の探求<中国禅>
⑧不安と欣求(ごんく)<中国浄土>
日本編、
⑨生命の海<空海>
⑩絶望と歓喜<親鸞>
⑪古仏のまねび<道元>
⑫永遠のいのち<日蓮>。
各巻とも、中身は3部構成になっている。第1部ではその領域の一流の仏教専門家(増谷文雄(ブッダ)、田村芳朗(天台)など)が、その領域について概説している。第3部では、哲学者として、梅原猛または上山春平が、その特定の仏教思想を、西洋哲学と比較させながら、その思想に迫る。第2部では、1部と3部の著者の対談が入る。
西洋哲学をそれなりに知っていれば親しみを持って、その仏教思想の領域にアプローチしていくことができる。内容として、入門向けであり、それほど難しくなく、かといって表面的でなく、幅広く哲学的なアプローチも行われている。本来、昭和43年に角川書店から出されたもので、古いが、初心者にとっては、ほとんど問題ないだろう。
・『饗宴』 プラトン著
中央公論社(『世界の名著・プラトンⅠ』所収)他
『饗宴』岩波文庫
プラトンの著作の中で、おそらく最も一般的に理解されやすい本だろう。 愛をテーマにしている。自由闊達な哲学の雰囲気が味わえる。 よく哲学の初心者向けの原典として、『ソクラテスの弁明』(プラトン)と、『方法序説』(デカルト)が挙げられるが、私はこの本が一番いいと思う。
・『ソクラテスの弁明』 プラトン著
岩波文庫
新潮文庫
中央公論社(『世界の名著・プラトンⅠ』所収) 他
・『国家』プラトン著
『国家〈上〉(下)』岩波文庫
中央公論社(『世界の名著・プラトンⅡ』所収) 他
国家論の古典。国家、人の集まり、真理、教育、芸術、あらゆることが独創的な卓越した視点から論じられている。2300年の時を超えて、プラトン自身から、訴えかけるものがある。
大部だが、楽しみながら一気に読める本。

白水社 2800円
『哲学入門』新潮文庫(920円)
(『哲学とは何か』は、論文集であり、その中心部分が、この『哲学入門』。『哲学とは何か』の約半分を占める)
著者ヤスパースは20世紀の哲学者。西洋哲学史が述べられるとき、絶対欠かせない哲学者というほど著名ではないが、それなりに多少詳しい哲学史を述べるなら、必ず出てくる哲学者である。20世紀最大の哲学者といわれるハイデガーと並び称されることもある。思想家ハンナ・アレントは彼のことを、本当の意味でのカントの後継者と評した。ある面、彼は、西洋哲学史の総まとめ的思想を提示した人なのである。キリスト教的な伝統に沿って無限なる超越者としての神を認めつつ、哲学者としての良心をもちつつ、また積極的に政治的方面にも意見を述べて時代に対して傍観者となることのなかった人なのである。

彼の哲学は、自己完結的なヘーゲルの荘厳な哲学とは違った、自己自身と超越者を見つめる実存哲学であり、閉鎖的・独善的なキリスト教的神観や、閉鎖的な無味乾燥な唯物論的な世界観でもない、神観(超越論)を展開したものである。彼ほど、本当の誠意を持って過去の世界の哲学史上の偉大な思想家たちの思想を受け止めた哲学者はいなかったかもしれない(独自のスタイルの哲学史『偉大な哲学者たち』に、その研究はまとめられている)。そしてまた彼は、何よりその上で、自分自身の実感に基づいて哲学する実存哲学者だった。彼の哲学は、コミュニケーションを非常に重視した「理性」の哲学でありかつ、自己自身をテーマにした「実存」の哲学なのである(『理性と実存』)。また力強い良心を貫いた思想家であり、その点で、何らかの意味で、社会や神といったものに対して背を向けた、マルクス、サルトル、ニーチェ、ハイデガーなどと異なっている。
さて、そのようなヤスパースだが、一方で、同時に、ハイデガーなどと比べると、独自性、完結性、思想としての明確さ、訴えかけに欠けるといえ、ある意味、平均的ともいえ、それゆえにあまり重視されないのである。
以上のような特徴を持った哲学ゆえ、彼が哲学入門書として、彼自身の哲学に基づいて書いた『哲学とは何か?』は、入門者には、おすすめできるのである。幅広く、偏見がなく、かつ平面的でもなく、良心的で誠意のある哲学的洞察に富んだ内容である。
・『現代思想としてのギリシア哲学』 古東哲明著
講談社選書メチエ

現代思想の観点から、ギリシア哲学をとらえる。一人の人としての読者にコミュニケートすることを意識して、著者は自分自身から語っているので、哲学をよく知らない人にも分かりやすい。著者はハイデガーの研究者。
内容は、・哲学誕生の瞬間 タレス ・逆説の宇宙 ヘラクレイトス ・存在の永遠 パルメニデス ・非知の技法 ソクラテス ・ギリシアの霊性 プラトン ・あたかも最期のように M・アウレリウス。
現代思想の入門書として、また、哲学そのものへの入門書としてもおすすめ。(2026.2 現在、どうも品切れ、中古の高価なものしか無いようです。同著者の別の入門書『瞬間を生きる哲学 <今ここ>に佇む技法 (筑摩選書 14)』など)
・『論語』
中央公論社『世界の名著・孔子 孟子』 貝塚茂樹 監修 所収 など様々な形式で出ています
他者への、本当の配慮とは何かを教えてくれる。儒教の原典。
中央公論社『世界の名著・老子 荘子』小川環樹 監修 所収など
『老子』中公文庫(世界の名著の「老子」の部分のみ)
道(Tao)の思想。道教の原典。
・仏教、儒教、道教に関して基本的なものを示したので、キリスト教とイスラム教に関しても、示しておく必要があるだろう。キリスト教に関しては、新約聖書か、さらに限定すれば福音書のどれか一つ。解説書として、ヤスパースの『偉大なる哲学者たち』の、イエスの部分の翻訳として理想社から出ているもの(『イエス・アウグスティヌス』)(Amazonでは見当たらないですね。大学図書館などにはあると思いますが)は推薦できる。イスラム教に関しては、『イスラーム文化』(井筒俊彦著 岩波文庫)がおすすめ。
(2000.12)
(2026.2 一部修正)



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